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【うらおもて歴史街道 No.3】 コロンブスはなぜアメリカ大陸に渡ったのか


〇インディアス事業の真実

第一次航海で西インド諸島に到達したコロンブス一行が行ったことは、基本的に次の3つに要約できる。

1. インディオの奴隷化、2. 島の占領(および入植地の建設)、3. 黄金(および香料など交易できそうな産物)の探索

第一次~第四次にわたる航海で、コロンブス一行が繰り広げた所業は残虐非道なものであったキューバなどカリブ海諸国では、コロンブスは悪魔と同義語に見られているという。

Christopher Columbus' Soldiers Chop the Hands off of Arawak Indians who Failed to Meet the Mining Quota
採掘ノルマ未達成のアラワク・インディアンの腕を切り落とすコロンブスの兵、テオドール・デブリー作(1590年代)

「[コロンブス一行は] 先住民が持っているわずかばかりの黄金を見ただけで大量にあるはずだと思い込み、期限を設けて、黄金を差し出すよう命じた。そしてそのノルマが達成できなければ、ほかの先住民への見せしめのため、腕を叩き切ったという。

 山に逃げた者は猟犬に追われ、たとえ逃げ切れたにしても、その先に待っていたのは餓死か病死。(中略)絶望にうちひしがれた人々は毒を飲み干した。

 コロンブスらが来たことによって、地上の楽園だったエスパニョーラ島は急速に人口が減っていった。(中略)もっと正しい表現を使えば、「殺された」ということだ。

 ある学者の推定では、当初30万人いた先住民のうち約10万人が、1494年から96年までの二年間に死亡したという。」(『日本は略奪国家アメリカを棄てよ』、ビル・トッテン著、ビジネス社、2007年)

マルコ・ポーロの『東方見聞録』には、カタイ(中国)の東方に7459の島々があると記されていた。トスカネリの地図にも、大西洋の真ん中に伝説の島アンティリアが記されていた。第一次航海で、コロンブスはまずカナリア諸島まで南下し、そこから一気に西に向かったが、トスカネリの地図によればその先にはアンティリア島があるはずであった。

コロンブスは、最初からそうした島々を征服するつもりで第一次航海に臨んだのではないか。かつて大西洋上のマデイラ諸島やカナリア諸島では、島の征服後に島民の奴隷化が行われたが、コロンブスはそうしたことを目指していたのではないか。征服した島々にユダヤ人が移住し、ジパングやカタイ(中国)と交易して莫大な利益をあげ、最終的にユダヤ人の独立国家を築く。その際、カタイに住むと言われるユダヤ人と連携を取ることを想定していたから、第一次航海にヘブライ語通訳を連れて行ったのだろう。

スペインの改宗ユダヤ人たちは異端審問の危険と隣合わせで暮らしていたから、コロンブスの計画に惹きつけられたであろう。それは、イベリア半島のユダヤ人問題を解決し得る計画であった。コロンブスが新天地の発見に成功すれば、イベリア半島のユダヤ人の受け入れ先となり得るし、いざという時には自分たち改宗ユダヤ人の避難場所にもなる。失敗のリスクはあっても、投資や保険と思えば計画に金を出す価値はあった。

一方フェルナンド王は、このようなコロンブス一派の目論見を最初から見抜いていたのだろう。そして、コロンブスの航海を認可する交換条件として、ユダヤ人の追放を考えていたのではないか。そして、レコンキスタの完了を待って、それを実行に移すこととしたのだ。それは、ユダヤ人の資金で対グラナダ戦が遂行されており、戦争完了までは彼らの資金力が必要だったからだ。また、レコンキスタの完了までは戦争に全力を傾注する必要があり、航海どころではなかったという事情もあっただろう。

こう考えれば、ユダヤ人の追放とコロンブスの航海計画は、互いにリンクした事業だったことが分かる。そして、14921月のグラナダ陥落と同時に、ユダヤ人の追放とコロンブスの派遣が決定されたのだ。

本書著者の福井氏は、コロンブスの伝記では、イサベラ女王ばかりがコロンブスの良き理解者としてクローズアップされフェルナンド王の影が薄いが、実はこの王こそコロンブスを考える上で重要だ、と述べている。フェルナンドは、マキャベリが『君主論』の中で称賛しているだけあって、一筋縄ではいかない人物だ。

コロンブスは、かつてフェルナンドの仇敵であるプロヴァンス伯レーネに仕えた男だった。コロンブスの前歴は、一部の人には公然の秘密であった。本書著者の福井氏は、フェルナンドはおそらくコロンブスの本当の正体を知っていて、その上でコロンブスとその支援者の改宗ユダヤ人グループを利用しながら殺すという方策に出たのだろう、と推定している。

フェルナンドは、コロンブスの第一次航海が成功すると、一転してそれを国家事業に格上げし、コロンブス一派の利権を剥奪していった。コロンブスは急転直下、栄光の座から転げ落ちていく。結局、コロンブスとその支援者の改宗ユダヤ人たちは、フェルナンドを利用しようとして、逆に彼に利用されたのだ。

福井氏は、本書を次のような言葉で締めくくっている:

「[コロンブス]によって発見されたアメリカが、その後長い時間を経てから、ユダヤ人の避難場所となった現実を考えれば、インディアス事業は、当初の目論見通り、成功に終わったと言ってもよいのかも知れない。」

本書には、本稿では取り上げられなかった興味深い話が他にも沢山あるので、関心を持たれた方はぜひ本書を手に取ってみていただければ幸いです。(終わり)

〇 参考文献

1) 「マラーノの系譜」p. 19、小岸昭 著、みすずライブラリー(1998年)

2) 「コロンブス正伝」サルバドール・デ・マダリアーガ 著、増田義郎・斎藤文子 訳、角川書店(1993年)

3) 「コロンブス」増田義郎 著、岩波書店(1979年)

・「コロンブス航海誌」クリストーバル・コロン 著、林屋永吉 訳、岩波書店(1977年)

・「スペインを追われたユダヤ人 : マラーノの足跡を訪ねて」小岸昭 著、人文書院(1992年)

・「希望の帆」シモン・ヴィーゼンタール著、徳永恂・宮田敦子 訳、新曜社(1992年)

・「コロンブス:聖者か破壊者か」ミシェル・ルケーヌ著、富樫瓔子・久保実 訳、創元社(1992年)

コロンブス略年表

(公開日: 2020年5月31日)

(最終改訂日: 2023年10月9日)

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