中北徹東洋大教授がNHK ラジオの番組を降板した問題について、1月30日付けのジャパン・タイムズが報道。さらに翌日付けのニューヨーク・タイムズが、籾井勝人 NHK 新会長の発言をめぐる問題を取り上げ、NHK が右傾化していると報道。NHK が姑息 (こそく) な情報統制によって世論を操作している実態が明らかになるとともに、安倍政権にすり寄るような NHK の報道姿勢への批判が高まっています。
◆ 2014年1月31日付 ニューヨーク・タイムズ
「日本の公共放送、右傾化しているとの批判に直面」
- NHK の前会長 (松本正之氏) は、報道姿勢がリベラルすぎると与党に非難され突然辞任した。後任の新会長 (籾井勝人氏) は、今の保守政権に忠実に従うと宣言して、即座に国民の怒りを招いた。1月30日には、都知事選後まで原子力を批判するなと言われたとして、中北教授が番組を降板したことで、さらに国民から批判の声が上がった。
- 原子力推進派の安倍右翼政権が NHK の報道に干渉している、という非難が高まっている。籾井新会長の「政府が右と言っていることを左と言うわけにはいかない」 という就任会見時の発言は、そういった懸念を裏付けるものだった。
- 籾井氏の発言は、公正な報道という NHK の使命に反するように見受けられる。NHK は、名目上は政府から独立していることになっているが、NHK の12人の経営委員は国会の同意を得て任命される。また NHK の予算は、国会の承認を受ける。
- NHK 経営委員会は、安倍政権が進める政策への批判を抑え込むための委員で占められている、という深い疑念を多くの野党議員が抱いている。そのような政策の例が、原発再稼働や、戦時中の日本の残虐行為の否定だ。
- 原口一博議員は、籾井氏を参考人として招致した委員会において、NHK が政府の広報部門になってはならない、と批判した。
- NHK のスキャンダルを理由に、日本の4世帯に1世帯が受信料の支払いを拒否している中で、今回の物議は NHK のイメージを損なうものだ。2004年には、NHK のプロデューサーが、横領した金で愛人とハワイなどに旅行していた。2011年の福島原発事故の報道では、放出された放射能の度合の隠蔽を図る政府に従順に従ったとして、NHK は批判を受けた。
- 安倍政権は、昨年12月に特定機密保護法を成立させたことで、支持率が低下している。多くの有権者が支持しない右翼的政策を押し通すために、安倍氏はメディア統制を行おうとしている、と多くのリベラル派が非難している。
- 元 NHK 記者の川崎泰資(かわさき やすし)氏: 「政府による甚 (はなは) だしい干渉だ。安倍政権は、政権に対する報道が弱腰になるように、NHK の経営委員に仲良しを揃 (そろ) えた。」 安倍政権は昨年、右翼小説家 (訳注: 百田尚樹氏を指すと考えられる) を含む 4人の新委員を任命した。
- 報道によれば、松本 NHK 前会長が辞任に追い込まれたのは、原子力や沖縄米軍基地に対する NHKの報道が批判的になりすぎたことを、安倍政権が非難したからだった。
- 籾井氏の就任会見における、特定機密保護法、安倍氏の靖国神社参拝、および従軍慰安婦をめぐる発言に、多くの日本人ジャーナリストはあぜんとした。
- NHK が安倍氏の圧力に屈したとして批判されるのは、今回が初めてではない。あるプロデューサーによれば、2005年に安倍氏を含む自民党議員が、ある番組のシーンを削除するよう NHKに 強要したという。
- また、強大な原子力産業とそれに同調する自民党議員からの圧力を受け、原子力と福島原発事故への批判を鈍らせている、として NHK は非難されている。元 NHK アナウンサーの堀潤氏は、米国の原子力事故を描いたドキュメンタリーを作成した際、上役らから 6時間以上詰問されたため、昨年 NHK を退職した。
- 堀氏: 「NHK は反原子力だと [原子力産業や政権から] 批判されるのを恐れている。 NHK では、権力を批判するのが難しくなってしまった。それは、民主主義にとっては不健全なことだ。」
◆ 2014年1月30日付 ジャパン・タイムズ
NHKラジオ第一放送の番組で、中北徹 (なかきたとおる) 東洋大教授が原発の問題を話そうとしたところ、同局が 「東京都知事選中は原発の話はやめてほしい」 と難色を示したために番組を降板した問題について報道。
- 中北教授は30日朝の番組で、次のようなことを話す予定だった。
– 原発の稼働コストが、最近の保険料や安全対策費の高騰を受けて世界的に上がっている。
– 日本では、原発の廃炉費用が電力会社のバランスシート (貸借対照表) に十分反映されていない。 - だが、前日に原稿案を見せたところ、ディレクターからテーマを変えるよう言われたという。リスナーの「投票行動に影響する」という理由から、選挙後まで待つよう言われたとのこと。
- 中北教授は、ジャパン・タイムズ紙の取材に対し、次のように述べた:
「人々は『印象』を元に投票する、とディレクターが執拗にこだわった。でも、争点となっている問題について、選挙後まで詳細に話できないというのは、いかがなものか。もし私が福祉について話したら、どうだったのだろう? それだって投票行動に影響するのではないのか?」
「選挙期間中、メディアは様々な問題を取り上げるべきだ。 そうしないと、有権者は判断材料を持たずに投票所に行くことになる。勇気をもって国民により多くの情報を与えるのが、報道機関の使命ではないのか?」 - 先週には、フリーランスのラジオ解説者ピーター・バラカン氏が、2月9日の東京都知事選終了後まで番組で原子力の話題を避けるよう、二つの放送局から圧力を受けたばかりだ。バラカン氏は具体的な放送局名を明かさなかったが、同氏は NHK FMラジオ と NHK ワールド、および他の民放テレビ・ラジオ局に出演している。 (参考記事: 【フクシマ・タイムズ】 2014年1月24日)
ご参考) 事件の事実関係については、次の東京新聞の記事をご参照ください。