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【うらおもて歴史街道 No.1】 ユダヤ人と経済生活


○第二部「ユダヤ人の資本主義への適性」

第二部では、ユダヤ人が資本主義にいかに適合しているかを、特に宗教生活との関連において述べている。

ゾンバルトは、資本主義の根本理念とユダヤ教の根本理念が、驚くべき度合で一致している、と主張する (図2参照)。

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その中でも、とりわけ印象深いのが、資本主義とユダヤ教の根本理念である合理主義についての説明だ。ゾンバルトは、ユダヤ教は陶酔を知らない唯一の宗教であろう、とまで述べている。つまり、ユダヤ教は、神と合一する恍惚感ではなく、冷徹な悟性と目的意識によって機械的・人工的に作られた宗教だというのだ。

また、ゾンバルトによれば、ユダヤ教では富や財貨の獲得が価値ある善として讃えられている、という。これは、キリスト教の新約聖書の中で、富が呪われ貧乏が讃えられるのとは対照的だ。

これらユダヤ教の合理主義と富の礼賛が、子供の結婚すら「業務」としてその金銭価値を最大化しようとするような、徹底した利潤追求・計算重視の姿勢に結びついている。

さらに、ゾンバルトは、ユダヤ教の考え方とピューリタニズムの考え方がほとんど一致している、と主張する (図3参照)。「ピューリタニズムはユダヤ教である」とまで言い切っている。ゾンバルトによれば、「クロムウェルは、旧約聖書と新約聖書との和解、ユダヤの神の民と、イギリスのピューリタンの神の会衆の内面的結合を夢みていた」。私は、これを読んで、「ピューリタニズムとは、ユダヤ教によるキリスト教の乗っ取り (あるいはキリスト教によるユダヤ教の取り込み) だったのではないか?」という仮説を抱くに至った。ユダヤ人はキリスト教徒から迫害されることなく、またキリスト教徒は伝統的な商業道徳に縛られることなく、商売を自由に好き放題できるようにするためだ。その検証は今後の研究課題としたい。

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また、ゾンバルトは、ユダヤ人が地理的に拡散していたこと、どの土地でも異邦人であったこと、という外的状況が、彼らが資本主義の発展に卓越した役割を演じる上で有利に働いた、と述べる。

ユダヤ人は、地理的に拡散していた利点を組織的に活用し、地球上の様々な場所の状況を迅速かつ確実につかみ、最良の情報を入手していた。これによって、諸々の取引所において、情勢に応じて彼らの業務の利益があがるように調整していくことができた。例えば、アムステルダム在住のユダヤ人は、組合と呼ばれる組織を通じて、ヴェネチア、サロニカ、ロンドン、フランスなどの組合と交流し、世界の出来事について、最も早く最も確かな情報を得ていた。彼らは、これに基づいて、キリスト教徒が宗教上の義務に忙殺されている日曜日に毎週集会を開く組織を作り上げた。この組織は、その週内に得た諸々の情報を吟味検討し、日曜の午後には早くも証券取引所の仲介人や代理人に通達していた。この人々も、互いに十分に話し合った後、その日の内に彼らの目的に適った情報を個々に広めていき、翌日 (月曜日) の朝から直ちに売買・取引に入ることができた、という。

また、ユダヤ人はどの土地でも異邦人であったため、非ユダヤ教徒相手に「遠慮会釈のない (情け容赦のない)」取引を行うことができた。特に重要なのは、ユダヤ教が、外国人 (非ユダヤ教徒) から利息を取ることを許容していたこと、そしてキリスト教徒の伝統的な商業倫理に縛られずに済んだことだ。以下に、少し長くなるが、本書の監修・訳者である金森誠也氏の解説から、抜粋・要約したものを示す。

中世 [ヨーロッパ] の封建社会では、キリスト教で他人に金を貸して利息を取ることは罪悪とされ、そのためキリスト教徒は大掛かりな金融業はできなかった。ところがユダヤ人にはこれが許されていた。もっとも、ユダヤ人であっても利息を取るのが許されるのは、相手が同胞ではなく、異邦人の場合である。たしかに、古いユダヤ人の共同体では利息のつかない貸付のみが許され、無報酬での同胞の相互援助が当然とみなされた。しかし、異邦人からは利息を取ってもよいという規定がすでに最古の掟のなかに見出される。

 『外国人には利息を取って貸してもよい。ただ、兄弟には利息を取って貸してはならない。これは、あなたが出かけて占拠した地で、あなたの神、主がすべてあなたのすることに祝福を与えるためである。』 (申命記 23章20節)

この掟があるためにユダヤ人は、中世全期を通じキリスト教には課せられていた利息禁止の重荷から解放され、自由に金融業を営むことができた。

また、ユダヤ人はその他、商取引の各部門で自由経済的な思考を進めることができた。これは、資本主義発展の基礎となった。近代の正直なキリスト教徒の企業家や商人では市場獲得のための自由競争など到底考えられなかった。ところがユダヤ教の教師ラビのつくった掟では、それが公然と認められた。」 (本書p.626-627)

こうして、ユダヤ人は、主に「金貸し」として天賦の才を発揮していった。

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