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【うらおもて歴史街道 No.2】 ウォール街とボリシェヴィキ革命


○  革命後のロシア市場獲得に向けた動き

革命の初期段階が成功すると、ボリシェヴィキの政権 (ソヴィエト) は、アメリカとの外交関係樹立、およびアメリカ国内へのプロパガンダ用の出先機関設置を目指して動いた。そうして、1919年初頭にニューヨーク市に設置されたのが、「ソヴィエト支局」(Soviet Bureau) であった。

この機関は、モルガン財閥のギャランティ・トラストを含むアメリカ企業から財政支援を受けていた。1919年6月にニューヨーク州のラスク委員会が「ソヴィエト支局」から押収した書類によって、このことが明らかになっている。

「ソヴィエト支局」の長に就任したのは、Ludwig C.A.K. Martensである。彼が、ソ連の初代駐米大使とされている。Martens の前職は、エンジニアリング会社 Weinberg & Posner の副社長であった。同社の所在地は、ニューヨーク市120 Broadway  (すなわちAICと同じビル) であった。著者のサットンは、何故「大使」とその拠点が、ワシントンD. C. ではなくニューヨークにあったのか、という疑問を発した上で、「ソヴィエト支局」の主目的が外交よりも通商にあったと説明する。

当時、ロシア国内の産業は崩壊し、ロシアはあらゆる物資を必要としていた。「ソヴィエト支局」は、ソヴィエトがアメリカ企業と取引契約を結ぶよう、取り計らった。1919年当時、アメリカはロシア北部のアルハンゲリスクでソヴィエト軍と交戦中であり、国家としてボリシェヴィキの政権 (ソヴィエト) を承認しておらず、ロシアに禁輸措置を講じていたにもかかわらず、である。

この時、最大の契約を受注したのが、シカゴの精肉業者Morris & Co. である。重量50百万ポンドの食品に対して、10百万ドルの受注をした。同社のMorris家は、Swift & Company (同じくシカゴの精肉業者) のSwift家と縁戚関係にあった。Morris & Co.のEdward Morrisに嫁いだHelen Swift の兄弟が、アメリカ赤十字の1917年ロシア派遣団に参加したHarold H. Swiftである (図1参照)。

また、「ソヴィエト支局」長Martensの出身母体であるWeinberg & Posnerも、機械を3百万ドル受注している。

これらの商品の対価として、ソヴィエトが提供したのは、主としてゴールド (や他の鉱物資源) であった。戦前 (1914年以前) に帝政ロシアで鋳造された、真正な金貨などが支払いに用いられた。このゴールドの輸送に、ギャランティ・トラスト (モルガン財閥)、クーン・レーブ商会 (Kuhn Loeb & Company)、Robert Dollar Companyなどが関与している。Robert Dollar CompanyのRobert Dollarは、サンフランシスコの海運王であり、AICの役員であった (図3参照)。

「ソヴィエト支局」以外に、革命後のロシア市場獲得に向けて設立された機関に、American-Russian Industrial Syndicate Inc. (1918年) と American League to Aid and Cooperate with Russia (1918年5月) があった。

前者のAmerican-Russian Industrial Syndicate Inc.に資金を提供したのは、グッゲンハイム・ブラザーズ (Guggenheim Brothers) や、Sinclair Gulf Corp. 社長のHarry F. Sinclair などであった。どちらの会社も、所在地は120 Broadway であった。グッゲンハイムは、アメリカ赤十字ロシア派遣団のThompsonの元雇用主である。

また、後者のAmerican League to Aid and Cooperate with Russia には、副社長として、アメリカ赤十字ロシア派遣団のThompson が就任した。また、フォード自動車のHenry Ford、ゼネラル・エレクトリック会長兼AIC役員のC. A. Coffinなどが役員として参画している。

さらに、1922年秋にソヴィエト初の国際銀行であるRuskombank が設立されると、その海外部門担当役員にギャランティ・トラスト (モルガン財閥) 副社長のMax Mayが就任した。また、Ruskombank頭取には、革命期にボリシェヴィキへの送金ルートを提供した功で、スウェーデンの「ボリシェヴィキ銀行家」 Olof Aschbergが就任した。

こうした動きを見ていくと、ウォール街のボリシェヴィキに対する支援は、無償援助ではなく「ひも付き」であったことが分かる。投資の元は取る、というウォール街資本家の固い決意が感じられるではないか。

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