○第一部「近代国民経済形成へのユダヤ人の関与」
第一部では、近代資本主義の発展において、ユダヤ人の果たした役割が述べられる。
目からウロコだったのが、中世から近代における〈ユダヤ人の移住〉と〈経済中心地の移動〉の外面的関係を述べた第二章。ユダヤ人が流入した土地が経済的に繁栄し、彼らが流出した土地が経済的に衰退したことが説明される。これを読んで、スペイン (ポルトガル) → オランダ → イギリス、というヨーロッパの覇権国の盛衰が、ストンと腑に落ちた (図1参照)。
皮肉なのは、カトリック教徒が異端審問などでユダヤ教徒を追放したスペイン・ポルトガルは没落し、そのユダヤ教徒の受け入れ先となったオランダ (アムステルダム) が突如興隆を果たしたことだ。また、興味深いことに、コロンブスの遠征の物質的基礎がユダヤ人によって提供されたこと、イギリスのピューリタン革命を指導したクロムウェルがユダヤ人の後援者であったことなどが述べられる。
この後、ユダヤ人はアメリカの建国に際しても大きな役割を果たすことになる。スペイン・ポルトガルを追放されたユダヤ人は、一部はブラジルやカリブ海諸島を経由して、また一部はオランダやイギリスからアメリカに入植した。オランダ西インド会社の植民地であったニュー・アムステルダムが、その後世界の金融の中心地となる、現在のニューヨークだ。
この他、第一部では、近代資本主義の発展においてユダヤ人が
- 国際貿易や贅沢品取引を独占したこと
- 植民地拡大に卓越した役割を演じたこと
- 軍隊の御用商人および王公の財政管理者 (いわゆる「宮廷ユダヤ人」) として、王公と連携して近代国家の発達に寄与したこと
- 有価証券取引の発生・発展に重要な役割を演じたこと
などが述べられる。
興味深かったのは、〈無記名証券〉がユダヤ人のニーズによって生まれてきた、という説明。ユダヤ人は迫害されていたので、常に財産を奪われるリスクにさらされていた。このため、送付貨物や債権の本当の所有者を隠すことができる〈無記名証券〉がユダヤ人の役に立った。〈無記名証券〉は、ある土地でユダヤ人迫害の嵐が過ぎ去るまで、彼らの財産を隠しておくことを可能にした。
日本でも、かつてワリシンやワリコーという無記名の割引金融債が脱税に使用されたことがあったが (自民党の金丸信議員の逮捕で有名)、そのルーツがこんなところにあったとは。
(下のページ番号をクリックして、次のページへお進みください。)