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【FT解説】 麻生太郎財務相 寄稿


 

日本は長い休止を終わらせるべく、兵器を展開中

(Japan is deploying its arsenal to end its long quiescence)

2013年4月19日

麻生太郎

日銀がデフレに対して金融バズーカ砲を放った今、人々はアベノミクスの次の一手は何かと尋ねている。アベノミクスとは、日本経済を再生するための我々の取り組みである。課題は重い。我が国は、戦後にデフレ的スタグフレーションを経験している唯一の国である。1990年代初頭にバブル経済がはじけて以来、我々は失われた20年間を苦しみ抜いてきた。デフレ期待は根強く、将来への投資は手控えられ、経済を侵食している。賃金、消費、投資は低調である。

デフレはバズーカ砲1本では撲滅できないというのが、アベノミクスの重要な洞察である。だからこそ我々は3本発射しようとしているのだ。すなわち、大胆な金融政策、柔軟な財政政策、そしてスタグフレーションを克服する成長戦略である。その着想は、大恐慌時代のフランクリン・ルーズヴェルトのリーダーシップと、彼よりも前の高橋是清から得たものである。高橋是清は、1920年代および1930年代の日本の大蔵大臣であり、彼の[景気]刺激策は、ルーズヴェルトの政策のモデルになったと言われている。

市場は1つ目のバズーカ砲の爆発を体感している。黒田東彦日銀新総裁は既に「量的・質的金融緩和」を発表済みである。日銀は既に拡大している日本のマネタリー・ベースを更に2倍にし、約2年以内に2% のインフレを達成すべく、考えられるあらゆる対策を講ずる。この政策により、長期金利は記録的低水準にまで押し下げられた。

2つ目のバズーカ砲 ― 柔軟な財政政策 ― は、民間需要創出を狙ったものである。我々の2012年度補正予算は、実質GDPを約2% 押し上げると期待される。税制改革により、起業家や投資や賃上げに対する実益が与えられる。税制変更が、企業がため込んだ現金を設備投資・人材への投資に振り向けることを後押しする。

景況感と株式市場は、12月に安倍晋三首相が就任して以来、劇的に上向いている。アベノミクスは、デフレに対する攻撃において、既に一定の地歩を得つつある。例えば、政府との対話を受けて、幾つかの企業が賃上げを実施した。

この勢いを、今度は回復へと転じなければならない。そこで、我々は第一のフェーズに付随するリスクに対応せねばならない。すなわち、「悪性のインフレ」と「悪い」金利上昇のリスクである。成長を伴わない物価上昇は、実質賃金を低下させ、公共の福祉に痛みを与えることになる。これが「悪性のインフレ」である。これを回避するために、3つ目のバズーカ砲、すなわち日本経済の潜在力を最大化する戦略が必要となる。

私は、日本の潜在力は大きいと信じる。他のアジア諸国との競合によって大きな打撃を受けている業界もあるものの、リニアモーター鉄道や水供給設備など、多くの戦略的領域において、日本はまだ圧倒的優位に恵まれている。日本が真の競争力を取り戻すためには、我々の隠れた強みを見出し、発想を転換する必要がある。

日本は環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) 交渉に参加する予定である。これは、日本が自らの隠れた強みを見出す良い機会となり得る。大胆な規制緩和やイノベーションを促す政策も、内部改革に必要となる。多くの日本の大企業においては、過去の成功が硬直性とリスク回避の姿勢へとつながった。彼らが事業のやり方を変え、開かれたイノベーションを促進するために、コーポレート・ガバナンスの強化が必要かもしれない。労働力を含めた資源の成長部門への円滑な移行が、生産性の向上に必要不可欠である。持続的成長のためには、雇用と賃金の増加が不可欠である。

第2のリスク、すなわち「悪い」金利上昇のリスクは、金融緩和に財政再建が伴わない場合に実体化する可能性がある。それは我々が計画するところではない。公的債務がGDPの200% を超える今、政策立案者はこの問題に切迫感を抱いている。昨夏には、不人気な消費税増税に対して、超党派の支持があった。我々は、財政を再建するという国際公約を守る。日本は、基礎的財政赤字 [のGDP比] を2015年度までに [2010年度の水準から] 半減し、2020年度までに解消する。私は、予定通り、消費税を引き上げる意向である。

アベノミクスのより広範なビジョンは、働く意欲のある人が機会を与えられ公正に報われる社会を創ることである。そのような社会は、大量生産や価格競争よりも、先端技術やイノベーションを重視する社会である。日本の復活は、世界にとっても有益である。なぜなら、それは日本の経済上のパートナーとウィン-ウィンの関係を構築し得る、成熟した経済への進化の過程でもあるからだ。

(引用終わり)