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【フクシマ・タイムズ】 2014年5月5日 集団疎開裁判


◆ 2014年4月1日付 Nuclear Hotseat #145

ふくしま集団疎開裁判 柳原敏夫 弁護士(疎開裁判 弁護団)へのインタビュー

「日本からの声」 ポッドキャスト日本語版の 0:00~8:15(文字起こし)

http://www.nuclearhotseat.com/1853/

福島第一原発事故後も、放射能汚染地帯には多くの人々が住み続けています。家庭の事情や経済的な事情によって逃げたくても逃げられず、やむなくそこに住み続けている人々もいます。彼らは放射能被曝による将来の健康被害に不安を抱えながら生活している訳ですが、国や県は一年間の累積線量が20ミリシーベルト以下の低線量被曝に対しては、健康被害の心配はないとして、その地域の住民の避難に対しては否定的です。

このような状況の中で、少なくとも子供達だけは守りたいと裁判所に救済を訴えたのが、集団疎開裁判なのです。彼らは、年間1ミリシーベルト以下の場所で教育をする権利を認めて欲しい、と訴えてきましたが、現在までに2回の裁判が行われ、いずれも却下されています。

集団疎開裁判の会の代表である、弁護士の柳原敏夫 (やなぎはら としお) さんにお話を伺いました。

Q.2回目の裁判は仙台高裁で行われましたが、一審に続き、原告の訴えは却下されました。しかも、その判決の内容が非常に理解しにくいものになっていると思います。その辺をご説明いただけないでしょうか。

A.(柳原氏)
この種の裁判、いわゆる科学裁判 (科学的な評価を加えて結論を出す裁判) では、その判断の構造は二階建てになります。一階にあるのは、事実の認定・判断です。一体、この裁判・紛争ではいかなる事実が存在するのか、という問題です。その次 [二階] の判断が法律的判断といって、その事実を踏まえた時に、どのような法律的な評価・判断が導かれるのか、という問題です。それを踏まえて、最終的な結論を出すんですけども。

仙台高裁で特徴的だったのは、一階の事実の判断については、私どもの主張をほぼ99%認めたんです。私達は、子供達はいま放射能の低線量被曝によって、生命や健康に対して大変危険な状態にある、と主張してきたんです。それを認めたんです。子供達のいまの被曝の危険を解決するには、避難するしかないとも言い切ったんです。これは、我々は勝ったんじゃないか、と思うような判決理由だったんです。一階部分は、パーフェクトと言っていいような内容だったんです。

ところが、二階になると途端に様子が変わってきて、色々、縷々(るる)理屈を言っているんですが、簡単に言うと、子供達は危険なんだから、もし危険だと思うんだったなら、自分で逃げなさいと。それで問題を解決しろ、と言ってきたんです。

法律・憲法は、国に義務を負わせているんです。ちゃんと子供を安全な場所で教育しなさいと。その義務を我々は主張したんですけれども、郡山(こおりやま)の自治体には、そういう義務は今回の場合は無いんだと。そこが、キツネにつままれた [ような] 話だったんです。子供達は危ないと認定しながら、裁判所は子供達を救済するのを拒否した、という判決を出したので、びっくり仰天したんです。

Q.早急に集団疎開をさせるという点については、とても難しい状況になってしまいましたが、今後どのようなことが福島の中で起こると予想されるでしょうか。また、子供達を守るために、どのようなプランをお考えですか?

A. こんなことは言いたくないんですけれども。チェルノブイリでも4年・5年過ぎた時に、それまではもう事故は終わったと思って、みんな普通の生活に戻って普通に生活できると思っていたんですけれど、4年目・5年目を過ぎた辺りから、被害が急増するんですね。その時に初めて、「何これ、終わってないじゃん」 と多くの人が気が付いて、「裏切られた、嘘をつかれた」 と怒りも含めて市民の声が起きた中で、チェルノブイリの住民避難基準が作られたんですけれども。

私達はチェルノブイリの経験を経ているんだから、チェルノブイリと同じ悲劇を繰り返すまい、と思って最初から疎開裁判を起こしてきた訳です。ただし、それを理解してもらうことは、そう簡単ではなくて、メディアは完全に私達の裁判を無視するし、理解されないということがあるんですけれども。

例えば、今年の2月上旬にあった福島県の甲状腺検査結果の最新発表は、74人の子供に甲状腺ガンが出ていて、これは同じ3年後のベラルーシの子供の数と比べると、人口比で言うと福島は35倍なんですね。

これは大変なことでして、甲状腺以外の様々な疾病(しっぺい)、白血病とか色んなガンとか免疫の病気ですね、それが何も全部35倍になるとは言いませんけれども、甲状腺ガンは一つの目印・象徴なもんですから、甲状腺ガンだけで35倍だったら、他の病気だって同じように大変な比率で起きておかしくないと推測できる訳ですね。それがベラルーシでは4年・5年目で爆発するんですけれども。

福島だって間もなく4年・5年目が来ますけども、その時にどんなパニックが起きるか、私達は予測せざるを得ないし、それを考えた時にはやっぱり避難するしかないということに、また原点に戻らざるを得ないと思うんですけれども。

しかも、こんな裁判をやること自体がおかしいんです。山本太郎さんが言うんですけれども、こんな裁判自体が何であるんだろうか、って。こんなの無くったって、とっくに行政が実施していれば、こんな裁判起こす必要なかったんですね。行政が実施しないんで、やむなく市民が異議申し立てというか、「何やってるんだ」と怒りの声をあげたのがこの裁判なので。こんな裁判を起こさざるを得なかったこと自体が、恥ずかしいというか、日本政府の、日本の恥部(ちぶ)だと思いますね。

もう事故から3年も経ってしまったにもかかわらず、何ら避難政策が実現されていないので。裁判だけ待っていては手遅れになるので、裁判と同時進行で、市民と心ある地方自治体の協力によって、子供達を安全な場所に自主避難させる支援をする避難プロジェクトを立ち上げ、実行しなきゃならないと思ってまして。4月から長野県松本市の協力を得て、松本市で子供達を長期留学させる最初の避難プロジェクトをスタートさせます。松本市は、菅谷(すげのや)市長という、チェルノブイリで5年半、医療活動のボランティア活動をしてきたお医者さんが、市長をされています。

これが松本モデルとして、全国各地で同じようなプロジェクトを、市民と地方自治体が力を合わせて立ち上げようとして、いま準備中です。この疎開裁判と避難プロジェクトの二本柱を、同時並行でいま日本で進めています。ぜひとも皆さん自身も、この試練に一緒に関わっていただいて、子供を救う取り組みに、皆さんの出来る範囲で協力をお願いしたいと思っています。