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【FT解説】 英国教会と消費者金融


7月26日付フィナンシャル・タイムズ紙報道によれば、英国教会のカンタベリー大主教であるジャスティン・ウェルビー (Justin Welby) 氏が、英国のペイデイ・レンダー (payday lender) 業界との対決姿勢を強めている。

ペイデイ・レンダーとは、日本語では「給料担保金融業者」と訳されており、次の給料日までの短期小口融資を高利で行う金融業者のことである (payday = 給料日、lender = 金貸し)。給与を担保にローンを提供するようだ。日本の消費者金融 (いわゆる「サラ金」) のイメージに近い。中には、年利に換算すると5,000% を超える利率で貸し付ける悪徳業者もいるようだ。

この英国ペイデイ・レンダー業界の市場規模が、この3年間で約9億ポンド (約1,350億円) から約22億ポンド (約3,300億円) に急拡大しているという。大不況下で日々の資金繰りに行き詰まり、通常の金融業者からはお金を貸してもらえない人々が、背に腹はかえられずペイデイ・レンダーに手を出しているのが実態だろう。

このペイデイ・レンダーに代わるもっと良心的なローンを人々に提供するために、ウェルビー大主教はある提案を行った。それは、500の信用組合 (預金や短期貸付を提供する地域密着型の金融共同組合) が、教会の敷地内で事業を行うことを許可する、というものである。ウェルビー大主教は、これによってペイデイ・レンダーを駆逐したいと言っている。FT紙は、人々の窮状を救うための善意にあふれた革新的な行動として、この案を概ね好意的に評価している。

しかし、私はあまのじゃくなので、ちょっと穿 (うが) った見方をしてしまう。このニュースの本質は、英国教会が消費者金融業に進出する、ということなのではないだろうか。ペイデイ・レンダーは、そのダシ (大義名分) に利用されているだけのようにも見える。

それだけ消費者金融が儲かる商売ということなのだろうが、なぜ今そこまでして英国教会が手を出さねばならないのか、その背景は分からない。英国教会の経営が苦境にあって、新たな収益源を求めているのだろうか?そのような仮説も立てながら、この事案を引き続き注視していきたいと考えている。

ご参考) ジャスティン・ウェルビー大主教は、石油業界で11年間 (主に1980年代) の勤務経験がある、異色の経歴の持ち主である。フランスの石油企業エルフ・アキテーヌに勤務した後、英国系のエンタープライズ・オイルで財務担当の役員も務めたようだ。

(以上)