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【FT解説】 デトロイト市の財政破綻

既報の通り、7月18日、米デトロイト市は連邦破産法第9条の適用を申請し、財政破綻した。負債総額は180億ドル (約1.8兆円) で、米自治体としては過去最大規模の破綻である。

同市の財政破綻については、何年も前から警告の声があがっていたので、今さら驚きはなく、とうとう来るべきものが来た、という印象だ。同市以外にも、破綻が懸念されている米地方自治体は多々あり、同市の破綻処理がどのように為されるのかは、他の自治体の先行指標としても注目される。

 

(1)  年金財政

焦点の一つである年金財政につき、デトロイト市は破産申請の際に、年金債務を35億ドル (約3,500億円) と申告している。しかし、7月23日付フィナンシャル・タイムズ (FT) 紙の報道によれば、この数字は過小報告の可能性がある。会計に携わる方はご承知の通り、年金債務の数字は、加入者の寿命をはじめ、多くの前提を置いて推計される見積値である。デトロイト市の年金債務の見積もりには、過度に楽観的な前提が使用されているようなのだ。これは、他の米地方自治体や、企業の年金財政においても (また日本の年金財政についても) 似たり寄ったりの状況であろう。

FT紙によれば、来年2月には、主観的な推計の使用が難しくなる会計基準が米国で施行されるという。 (これが具体的にどのような会計基準なのかは、調査したが判明しなかった。) なんとも間の悪い (うがった見方をすれば絶妙な) タイミングでの会計基準変更であるが、もしそうなったら、年金債務を過小報告していたことが明るみに出て、財政破綻する米地方自治体が続出するのではないか。(日本の年金財政も、他人ごとではない。) 先週には、シカゴ市 (イリノイ州) が、年金財政の積立不足を理由に格下げされたばかりである。

少し古い記事になるが、Business Insider というサイトが2010年12月時点でまとめた 「財政破綻が懸念される米国の市」のリストには、デトロイト (ミシガン州) と並んで、サンディエゴ、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンノゼ (以上カリフォルニア州)、シンシナティ (オハイオ州)、ホノルル (ハワイ州)、ニューヨーク市、ワシントンDCなどの名が挙がっている。

(URL: http://www.businessinsider.com/americas-most-bankrupt-cities-2010-12?op=1)

 

(2)  地方債市場への影響

米国の地方債市場は、3.7兆ドル (約370兆円) の規模を持つ巨大な市場である。これらの地方債を発行している地方自治体は、社債を発行する企業などよりも、通常は有利な条件 (具体的には低い金利) で資金を調達することが出来る。言い換えると、これらの地方債は格付が高い。なぜなら、地方債の多くは、その地方自治体の住民に対する徴税権を担保に発行されるからだ。つまり、お金の借り手である地方自治体は、貸し手である投資家に対して、「イザという時は、増税してでも、また必要があれば新税を設けてでも、住民から税金を取り立ててお返しします。だから、どうぞ安心して我が自治体にお金をお貸しください」という触れ込みで地方債を発行して、お金を借り入れる訳である。(このような地方債を、一般財源債 (General Obligation Bonds) と呼ぶ。)

しかし、デトロイト市のケースでは、この前提が崩れる可能性がある。FT紙報道によれば、同市の非常時管理責任者に任命されたケビン・オー氏は、一般財源債の債権者に80%超の債権カット (つまり借金棒引き) を提案している、という。債権者にとってみれば、「税金を取り立ててでも返済」どころか、貸した金が2割になって戻ってくる訳である。もし本当に債権カットが行われると、一般財源債の「高い格付」は裏付けを失うことになり、これは他の地方自治体が発行している地方債の格下げにつながる可能性がある。3.7兆ドルの市場規模を持つ地方債市場だけに、その影響は測り知れない。

(以上)